Friday, June 4, 2010

ネパールの教育現状と課題

 2001年時点で、ネパールの識字率は53.7%(男性65.1%女性42.5%) である。すべての市民に基礎教育を受けさせる目的でネパール政府が1975年から初等教育の学費を無料にし、1979年から教科書も無料にしているが、今でも初等教育は義務教育化にはなっていない。ネパールでは、まず入学するにも様々な障害があり 、また、登校できた子どもたちでさえ、留年や中途退学をすることが多い 。いまだに、19.6%の就学年齢の子どもたちが入学できていない状況である。小学校の留年、中途退学を減らし、すべての子どもたちに少なくとも初等教育を受けさせるため、政府が様々な国際及び国内機関と協力し、努力している。その結果、過去10年間の登校率の増加、識字率の増加だという成果がでている

 教育省の2008-09年の教育機関数及び登校率を見てみると、
   幼年期発達プログラムの施設数、 23,659  登校率   63.4
   5年制小学校数、       30,924   登校率  91.9
   3年制中学校数、       10,636   登校率  57.3
   2年制高校数、         6,516   登校率  36.4であるという事。
Source Flash Report 2008 年度(教育省より)p4 p6,

ネパールの教育制度
 ネパールで、5-3-2制として、1951年に始めての「学校改革」が制定された。次に、1971年のNESP では、それまでの5-3-2制を改めて3-4-2制に変更された。カリキュラムの変更は約10年ごとに行われるが、学校制度も1981年には5-2-3制に、そして1993年には5-3-2制に改編されている。
 これまでの大学のIntermediate (PCL:Proficiency Certificate Level)に相当する高等教育課程を後期中等教育として付け加えた、5-3-2-2制の導入が一部はかられ、現在移行期間中である。また1998年度からの第9次5ヶ年計画では、小学校教育の義務教育化が検討されている。
 ここでは、初等教育を行う学校(1~5学年)を「小学校」(Primary School)、前期中等教育を行う学校(6~8学年)を「中学校」(Lower Secondary School)、中期中等教育を行う学校(9~10学年)を「高等学校」(Secondary School)と呼び、特に後期中等教育(11~12学年)に言及するときは、「10プラス2(10+2)」または「Proficiency Certificate Level PCL」と呼ぶことにする。また「中学校」 は一般に小学部を持ち1~8年生までの生徒が通い、同様に「高等学校」には小・中・高の1~10年生までの生徒が通うのが普通である。これは歴史的に小学 校が6~8年を加えて中学校として認可され、中学校が9~10年を加えて高校として認可されてきたためである。
中期中等教育の第10学年を終えた段階で、全国統一問題のSchool Leaving Certificate:(SLC:中等教育修了資格)試験を受ける。これは、高校卒業認定試験でもあり、また大学入学するための義務である。これの成績によって、大学へ入学を許可される。
今日では英語の教養やエリートの条件に置きかえられたために、English Boarding School と呼ばれる私立学校が、都市部を中心にその数を増大させている。初等・中等教育課程の他に、NurseryやK.G.と呼ばれるEarly Childhood Education/Pre-primary Education「就学前教育」を公立とは別の英語の教科書を使ったエリート教育の場で行なっている。有力者・富裕層の子弟がこれらの有名私立学校に通うことで、これまで地域社会が一丸として支えて運営してきた公立学校への支援体制にひびが入り、公立学校の質的低下、社会階層の格差増大が指摘されている。

ネパールの教育行政
 中央の教育行政を担当するのは、教育省(MOE:Ministry of Education)である。1999年に地方分権化の促進のために、DOE(Department of Education)が新設された。DOEは下記に述べる地域教育事務所や郡教育事務所を所轄する中央部局である。その中に総務・計画・施設部、初等教育部、中等教育部を独自に持ち、教育行政の中でも大きな役割を行うものと期待されている。
 地方には5つの開発区のそれぞれに地域教育事務所(REO:Regional Education Office)が置かれ、さらにその下に全国75郡の各郡で教育事務所(DEO:District Education Office)がある。郡教育事務所には、教育省から派遣された郡教育長(District Education Officer)の他、数人の「視学官」(School Inspector)がいて、1人20―30校を担当し、月に1-2回は郡内を巡回視察することになっているという。
 公立学校は教育省の教育規則に基づいて設立された学校運営委員会(SMC:School Management Committee)によって運営される。学校長は通常その委員会の書記を務め、委員長以下その他の委員は、地域社会の有志が選ばれる。学校運営委員会は学校のすべての職務に責任を持つが、特に学校の発展のための地域住民の参加やその人的・物的資源の動員を促がすることが期待されている。

幼年期発達プログラム(Early Childhood Development Program)の必要性と基本的な原理

 Early Childhood Development Program (ECDP)の必要性について研究者が様々な議論をしている。これまでの研究から見てみるとECEの必要性には、科学的な議論、道徳的な議論、社会的な議論と経済議論として四つのカテゴリーに説明することができる。

① 科学的な議論
 歴史を見ると、紀元前6世紀から幼年期は、「生活の基盤」であることが挙げられている。当時の定義に基づき、「As the twig is bent, so the tree will grown」が使い始められたとみられる。大人になったらどんな人間になるのかを、幼年期における発育のあり方、方法、環境、教育、栄養が大きな影響を与えるものであるということがある。「幼年期は、知性、個性、社会的なふるまい形成において時期である 。」また、「50%以上の知的潜在能力発達は就学期間に行う 」。幼年期において以下に過ごしたかが、大人になった後にも景を落とすことがあり得るとしてそれは大人にとどまらず、彼らの家庭、社会、国家までにも影響を与える。幼年期プログラムは、幼児の知識的、感情的、社会的成長及び子どもの豊かな発達を向上することに効果を与える 。そのため、ECDPには、栄養・食事、健康、知識的・感情的・社会教育を含める必要がある。また、家庭環境、学校の環境及び地域環境が幼児に重要な影響が与えるということである。

② 道徳的な議論
 1990年、2001年に採択された「万人のための教育世界宣言」では、すべて住民に基礎教育を受けさせる目標を掲げた。1989年の子どもの権利条約では、幼児の豊かな発達のため、すべての幼年期の子どもたちにより良いECDPを受けさせること。また、1990年の子どものための世界サミットでは、子どもたちに、2000年までに、全体として就学率の向上は見られるとしている。すべての子どもに、生きる権利がある。子どもの生存及び豊かな発達に、家庭、地域、国家の努力が重要である。子どもが、良い家庭環境で、栄養・食事や良いECDPを受けることは、子どもの権利であり、その設備を与えることは、家庭、学校や国家の道義的責任になる。

③ 社会正義と平等的議論
 今日においても、ECDサービスを受けている者全体の中で、経済的不安がない、都市部の地域に暮らしている住民の子どもたちが高い割合を占める。これによって、ECDサービスを受けて、良質な教育を受けている子どもたちと、郡部で暮らしており、ECDサービス及び良質な教育を受ける機会がない住民の間の経済的や教育的ギャップは幅広くなっている。このような状況に、ECDサービスは、不利な状況に暮らしている住民の子どもたちも、ECDサービス及び良質な教育を受ける様な状況を作ることができれば、貧困削減、差別(社会的・宗教教的・ジェンダーによる差別)の問題も解決することができると考えられる。就学前教育は、郡部で暮らしている貧しい家庭の子どもと都市部で暮らしているお金持ち家庭の子どもの間のギャップも減らすことに役立つ ことを挙げている。
ECDサービスは、子どもの豊かな発達及び教育発達を促進し、貧困削減及び差別を減らすために重要であり、良いECDサービスと良い運営をするため、社会正義及び平等議論は必要である。

④ 経済的議論
ECDの必要性に対しての経済的議論に三つにまとめることができる。①初等教育の高い留年率及び中途退学率を減らし、初等教育への基金を減らすこと。②幼児がECE施設に登校できることによって、母親が所得創出活動に参加し、経済成長できるということ。③幼年期に、健康、栄養、教育を受けたけた子どもが将来に有能な市民なり、それは国の発展にも効果が当てると考えたものである。

Early Childhood Development Programの基本的な原理
 ECDPの基本的な原理には、子どもの全面的発達という視点、、子どもを中心とした遊びやアクティビティの方法という視点、、形式に捉われない方法、、社会・文化的状況に基づいたプログラムとして四つに区分することができる。

① 子どもの全面的発達という視点
 有名な教育者である、ペスタロッチが子どもの発達について、「頭、手や身長の発達ではなく、全人体的発達であろう」と述べている。また、幼児教育の研究者であるKaulがECEについては、「ECEは子どもの全体的発達を指すものである」 と述べている。そのため、子どもの全人的発達させるため、ECEプログラムには、子どもの身体的、知的、社会的、情緒的、教育的発達する様な内容を含めるべきである。

② 子どもを中心とした遊びやアクティビティの方法という視点
 ECDPは、子ども中心に行われるべきである 。幼い子どもであるため、遊ぶ時、食事の時や教育を受ける時のいずれの時間でも、教職員はサービス提供にあたり、子どもを中心にする必要がある。子どもは、遊びながら学ぶこと、活動しながら覚えること、経験してから理解できることがあるため、ECDPに授業だけではなく、スポーツ、ゲームなども使用することも必要である。子どもが喜んで、ECD施設に来て、楽しんで家に帰ることによって、子どもの心理的な発達にも影響を与えるため、ECDプログラムの内容や教職員のふるまいにも気をつけることが重要である。

③ 形式に捉われない方法
 ECDPは、日課と授業期間(クラス期間)を決めて、厳しく授業受けさせることではなく、楽しい環境で、子どもたち喜ぶような活動を行うこと 。ECDPを行うことによっての目標のうち一つは、小学校入学するための就学前教育を受けさせること捉えられている。実は、ECDPは、子どもの全人的な発達に着目し、形式にとらわれないやり方にするべきだ。

④ 社会・文化的状況に基づいたプログラム
 社会による、特色として、文化的、経済的、知識的状況は違いが考えられる。その状況によって、プログラムにも柔軟性が必要である。また、ECDPの成否は、施設運営側、家庭と地域の共同参加に依存するものであるので、プログラムは社会文化的状況に合わせて行うべきだ。また、親・保護者は子どもの最初の教師、家は最初の学校といえるので、親・保護者の教育及び能力も子どもに大きな影響を与える。そのため、親の教育も重要である。また、施設の長期持続のためも親と地域の参加は非常に必要である。

幼年期発達プログラム(Early Childhood Development Program)とは

「幼年期」とは、生後から小学校就学前の6-8歳未満までの期間を指すと考えられる。「受胎期もしくは、出生から初等教育就学前」までの乳幼児の最善で全人的な発達、すなわち身体的、知的、社会的、情緒的発達を包括的に促すために、乳幼児やその保護者に対して行う教育、健康、衛生、栄養などの複数のセクターにわたるケアと教育活動」はEarly Childhood Development(ECD)を指している。
 幼児に対する教育活動やケアを指す日本語としては、「幼児教育」、「保育」、「就学前教育」、「早期教育」などがある。一方、英語の用語としては、0歳から3歳までの乳児のためのケアには、「Child Care Centers」、「Kindergarten」、「Day Care Centre」などの用語を使用することがある。また、3歳から6-8未満の幼児のためには、「Pre-Primary Education」、「Kindergarten」、「Early Childhood Education」などを使うことが多い。
 基本的原則によっては、幼年期に受けさせるすべての教育には、Early Childhood Education (ECE)と説明されている。「ECEは出生から8歳までの教育である。ECEプログラムには、幼児教育と初等教育の低学年までの教育を指す。所によって、6歳以下の子どものため教育と説明することもある 」。しかし、今日でも、ECEプログラムを3歳以上の幼児のための教育と捉えている組織が多い。ECDプログラには、ケアと教育としては大きく二つに区分することができる。一般的には、0歳から3歳未満の乳児のために「保育」を行い、3歳以上からの子どもたちのためには、小学校就学前の準備教育として、「教育」を行うことがある。
 乳児ケアは、乳児に関する身体的成長のみならず、知能や情緒、社会的能力の向上も含有したケアを行うことや幼い子どもを抱えた母親の就労支援を主目的とした「保護的ケア」の意味で使われる。そのため、「ケア」では子どもの保護や健康・栄養改善を中心に活動し、知的刺激や教育活動を重視しないことが多い。
 ECEプログラムを受ける年齢によって、①3歳―6歳までの子どものための教育と②6歳未満のすべての子どもたちのための教育として二つのプログラムに区分することができる。しかし、3歳―6歳までの子どもたちのための教育―就学前教育(pre-primary education)として説明されることが多いECEプログラムには、「就学前教育」、「幼児教育」の同義語として扱われる場合があるものの、一般的に小学校入学前の準備教育という側面をより意識して用いられる。就学前教育は、広義では乳幼児を対象に家庭の外で組織的に行われる教育すべてを指すものである。

ECDの効果を一言で表すとすれば、それは「ECDの普及が人間発達の推進につながる」という点に集約される。
ECDの直接的効果としては、①子どもの身体的、知的、社会的、情緒的な発達、②家庭や地域との連帯強化、③保護者の就労支援や子どもの保護④子どもの権利保障などである。これらは最終的に「学校環境での学習に対する素地」、いわゆる「就学素地の涵養」という二つの大きな効果となって表象する。
一方、ECDの長期的効果としては、①学校面に与える効果、②地域社会や国家に与える効果である。
① 教育面では、小・中・高校での留年や中途退学の減少、学習結果の向上、就学年数の増加、身体的・精神的健全な発達、教育に対する保護者の意識向上、収入の向上が達成されると考えている。
② ECD普及が地域社会や国家に与える意義については、社会セクターの充実、効率の向上、公正の実現、経済成長の促進、子どもと女性の権利の保障である。社会セクターの充実としては、ECDの普及が初等教育の完全普及や社会関係資本の構築、さらには健康的社会づくりにも寄与することに言及した。また、ECDの普及は留年・中途退学の減少や健康増進を通して、ECD自体も子どもの発達に多面的に働きかけることによって効果を倍増させ、社会的投資の効率を上げることできると考えている。